発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS)の健康影響を評価し、食品や飲料水の1日当たりの摂取許容量を議論してきた内閣府食品安全委員会は25日、PFASの一種であるPFOSとPFOAの2物質でそれぞれ、体重1キロ当たり20ナノグラムを指標とする「評価書」を正式決定した。約4000件届いたパブリックコメント(意見公募)は「緩すぎる」などの批判がほとんどだったが、食安委は反映しなかった。(松島京太)
◆WHO指摘の発がん性は「証拠不十分」
欧州食品安全機関(EFSA)は2物質の合計で体重1キロ当たり0.63ナノグラムと設定。これと比べると、今回の評価書で採用された2物質の合計値の40ナノグラムは、60倍以上の緩さになる。
PFASの評価書案に対する約4000件のパブリックコメント
評価書では健康影響については、2物質の摂取に伴う肝機能値指標とコレステロール値上昇、免疫低下、出生体重低下については関連や可能性は否定できないとした。発がん性に関しては「証拠は限定的」との評価にとどめた。世界保健機関(WHO)の専門組織は昨年、PFOAを「発がん性がある」と結論づけている。
◆議論の方向性「決まっていたのでは」
評価書の案は今年1月、食安委の専門家会議で了承。2月7日から1カ月間、実施されたパブリックコメントでは「基準が緩すぎる」「『予防原則』に立った判断をしてほしい」など主に批判的な意見3952件が寄せられた。食安委は「知見を整理し重要な文献を用い、科学的根拠に基づく評価をした」と退け、原案通り評価書を決定した。
PFASに詳しい京都大の小泉昭夫名誉教授(環境衛生学)は「最新の科学的知見を不採用として、国際的にも非常に緩い指標となった。多数のパブリックコメントを一切反映しなかったのも既に議論の方向性が決まっていたのではないかと感じる」と批判した。
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◆水道調査は「自衛隊基地も対象」と環境相
水道水に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)の全国的な実態把握を巡り、伊藤信太郎環境相は25日の閣議後会見で、「自衛隊施設でも、(井戸水などの)専用水道が設置されていれば調査の対象となる」と述べた。
閣議後会見で質問に答える伊藤信太郎環境相
環境省と国土交通省は5月29日、全国の水道事業者にPFASの検出状況の報告を依頼。従来は給水人口5000人以上の事業者を対象としていたが、小規模でも井戸水などを水源として給水する「専用水道」の事業者にも広げた。
自衛隊は在日米軍と同様に、PFASを含む泡消火剤を使用してきた。PFASの河川や地下水の汚染は、航空自衛隊浜松基地(浜松市)や空自岐阜基地(岐阜県各務原市)などの周辺でも問題化している。(松島京太)
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