<野球のミライ>
放課後の校庭や公園で白球を追いかける子どもたち。
かつては当たり前だった光景も、今では目にする機会はめっきり減った。国や自治体が設置する都市公園の大半はボール遊びが禁止され、野球に親しむ機会が少なくなっている。「都会の子どもたちが思いっきり野球を楽しめる環境をつくりたい」。そんな思いから立ち上がった野球人がいる。
◆ビルの地下1階に響く金属バットの音
室内練習場「インドアボールパーク練馬」で打撃練習を行う子どもたち=東京都練馬区で
西武池袋線中村橋駅(東京都練馬区)から歩いて5分ほど。幹線道路沿いのビルの地下1階に軟式球を打つ金属バットの音が響く。約80平方メートルの室内練習場「インドアボールパーク練馬」。最大3カ所でティー打撃ができ、キャッチボールや、ミニハードルやラダーを使ったトレーニングもできる。
「雨や気温が高いときは特に利用が増える」。山崎博志さん(55)はそう語る。平日は主に小中学生を対象にした野球スクールを行い、スクールがない時間帯や土日祝日に個人や団体に有料で貸し出している(1時間あたり平日3500円、土日祝日4950円)。スクールのチーフコーチと運営会社「エンジョイベースボール」の社長を兼ねるのが山崎さんだ。
4年前の夏に転機が訪れた。散歩で訪れた公園で野球をする子どもは皆無。バットを振る親子を見かけたこともあったが、他の公園利用者から注意を受けていた。自身の子ども時代、遊びの定番は野球だった。校庭や田んぼなどで年上の子がコーチ役となり、夢中になってボールを追った。そんな光景は今ではあり得ないものになっていると改めて実感させられた。
◆高校、大学生や大人の利用者も
「子どもたちに思いっきり野球が楽しめる環境をつくりたい」と語る山崎博志さん=東京都練馬区で
2006年から練馬区の学童野球チーム「ヤングベアーズ少年野球団」で指導。自主練習の場所探しに苦労する選手の声も聞いていた。会社の早期希望退職の募集に手を挙げ、今後の人生を思案していた時期でもあった。「思いっきりバットを振ったりボールを投げたりできる場所を、子どもにつくってあげたい」。50歳を過ぎてからの挑戦に、家族は「今まで頑張ったんだから自由にやれば」と背中を押してくれた。
2020年9月に運営会社を設立。並行して不動産会社や空き物件を自転車で巡り、現在の場所を見つけた。室内の施工も一部を除いて独力で行い、同年12月に開設にこぎ着けた。趣旨に賛同する指導者仲間の協力もあり、口コミで利用者は増え、練馬区外からスクールに通う子も。高校生や大学生、大人の利用者もいる。
かつての公園のようにいつでも自由にとはいかないが、それでも「必要としている人は想像以上に多いと実感している」と語る。「もっとこういった場所が増えてほしい。やってみたい人がいるなら、手伝いやアドバイスをしたい」と力を込めた。(酒井翔平)
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◆ボール遊び規制の公園、東京は8割
日体大の寺田光成助教(造園学)らが2019年に全国399自治体を対象にした調査によると、回答した276自治体の60%が街区公園でのボール遊びを規制。東京都(回答22自治体)に限ると81.8%に上った。「危険」だとする近隣住民からの要望を規制理由に挙げた自治体が多い一方、規制を始めた時期や理由を「不明」とした自治体も目立ち、経緯の不明瞭さも浮かんだ。
室内練習場「インドアボールパーク練馬」は、ラダーやハードルを使った練習もできる=東京都練馬区で
自治体と住民の協議で緩和されたケースもある。千葉県船橋市は中学生から要望を受け、2015年に有識者や市民代表らでつくる「ボール遊びのできる公園検討委員会」を設立。2016年からボール遊び禁止の市内5カ所の公園で試験的にキャッチボールやサッカーなどが楽しめるようにした。現在は「周りに気を付ける」「大きな音を出さない」などのルールを設けた上で、広場を含めた約30カ所でボール遊びができるようになった。
規制による子どもへの影響について、寺田助教は「決められたルール内で遊びを考える契機になる一方、さまざまな体験や挑戦をする機会が減少してしまう可能性がある」と指摘。規制の事情は各公園で異なるとした上で「子どもを含めて関係者が納得のできるルールづくりをすることが大切だ」と語った。
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野球の競技人口が減少する中、直面する課題や関わる人々の姿を通し、日本野球の未来を探る<野球のミライ>は、随時掲載します。
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