首都東京の治安を守る警察官。その採用活動に、警視庁が苦心している。採用試験の受験者数は、ピークだった2010年度の3分の1にまで減少。人事担当者は「このままでは質の高い治安維持活動を保つことに支障が出る恐れもある」と危惧し、総力戦で人材確保に挑んでいる。
◆真夏も懸命にパンフレットを配り
「警察官、興味ありませんか?」。8月中旬、清瀬市で開かれた「清瀬ひまわりフェスティバル」の会場で、東村山署員が「勧誘」を実施した。約10万本のヒマワリを目当てに訪れたカップルや親子連れらに話しかけ、パンフレットを配る。
「清瀬ひまわりフェスティバル」で学生を勧誘する東村山署員=清瀬市で
足を止めた大学3年の女子学生は「体力面での不安が…」と戸惑った様子。地域課の女性署員(24)が「私も体力には自信がないけど、学校で少しずつ運動に慣れるから大丈夫」と笑顔で語りかける。斎藤直樹・地域課長は「若い世代が多い場所に出向くことが大切」と汗をぬぐった。
◆受験者数は全国でも半減
警視庁の採用試験の受験者数は2010年度には約3万人だったが、その後は右肩下がりに転じ、2023年度は約9700人に落ち込んだ。合格者の辞退率も約4割に上る。警察庁によると、全国の警察官採用試験の受験者数も2014年度の約9万7000人から2023年度は約4万8000人と半減しているが、警視庁の方が減少率が高い。
こうしたことから、警視庁は採用数自体を2010年度の2000人から2023年度には1000人以下に半減させており、採用目標人数を割り込むことはほぼないという。ただ、同庁人事第2課の担当者は「より多くの学生が受けてくれると適材適所の人材を確保できるが、警察官に向いている人や潜在能力がある人に、こちらを向いてもらえていない」と苦悩を語る。
◆「体力勝負」イメージ脱却作戦
受験者減少の原因について、担当者は「学生の地元志向が強まっている。警視庁と地元県警の両方に受かった学生は、地元を選ぶ傾向にある」と分析。さらにコロナ禍を経てテレワークができる仕事が人気になり、「現場第一の警察業務は選択肢に入れてもらいづらい」と肩を落とす。
勧誘にはピーポくんも「出動」した=清瀬市で
そうは言っても、人材の確保は急務。体力勝負の激務というイメージを脱却するため、「男女ともに育休や産休も取りやすい。福利厚生が整っている」とワークライフバランスを必死にアピールする。
◆危機感にあふれたポスター
職員にも協力を呼びかける。警視庁本部庁舎の1階には8月、「1人の職員が1人受験勧奨すれば4万人は受験するはずだ!」「至急!至急!職員減少に伴い、緊急受験勧奨活動令を発令する!」という、危機感にあふれた文言のポスターが張られた。多くの受験生を勧誘できた職員を表彰する取り組みも展開。各署でもイベントを開いたり、地元ラジオ局で採用情報を発信したりしている。
警視庁本部庁舎に張られていたポスター=千代田区で
本年度の第3回採用試験は、11月29日から申し込みを受け付ける予定。担当者は「都民の安心安全を守る仕事。誰かのために仕事をしたい志を持った人に来てほしい」と熱く語る。
◆文と写真・昆野夏子
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