大谷翔平が贈ったグローブの「今」 都内の小学校、キャッチボールで広がる笑顔 「禁止」の学校では…

米大リーグ・ドジャースの大谷翔平が、全国の小学校に野球のグラブを贈ってから半年余り。「野球しようぜ!」のメッセージとともに大きな話題となったプレゼントは、今どうなっているのか。東京都内の小学校を取材した。(酒井翔平)

◆保護者からの寄付で追加、人数分確保

西東京市立碧山(へきざん)小学校では、児童が中心になって使い方を決めた。「入学していない後輩たちもグラブのことを知れるよう、少なくとも5年間活用する」をテーマに有志が議論。休憩時間にメンバー同士でキャッチボールすることにした。

大谷グラブを使ってキャッチボールを楽しむ小島凜咲さん

現在は2~6年生の約20人が夏場を除き、多い時には週4回、キャッチボールしている。「大谷グラブ」に加え、保護者に寄付を呼びかけて人数分のグラブを確保。安全のためボールは日本プロ野球選手会が開発した柔らかい専用球を使用している。本年度中に校内で野球大会の開催を目指している。

◆「友達に教わってできるようになった」

メンバーのほとんどが野球未経験者で、3年の小島凜咲(りさ)さんもその1人だ。「捕球も投球も苦手だったけど、野球をやっている友達に教えてもらってできるようになった。難しいけど楽しい」と10回連続捕球を目標に挑戦を続けている。家族と野球をする機会が増えたという2年の日高元道さんは「頑張ってうまくなったら、もっと面白くなった」と笑顔。6年の真名子(まなご)成美さんは「もうすぐ卒業するけど、後輩たちにはこれからもどんどん使ってほしい」と願った。

同校は児童の主体性を高める取り組みに力を入れている。「大谷グラブ」も子どもたちの成長を促す良いきっかけになっていた。稲冨泰輝校長は「やり方を他の子に伝えるなど、相手を思う姿勢が見られるようになった。細く、長く校庭で遊ぶコンテンツになれば」と語った。

◆「申し訳ないが…」持て余す学校も

一方、うまく活用できずに持て余しているケースも。児童数が1000人超のある小学校は、けが防止のため休み時間の運動場でのキャッチボールを禁止している。他の道具もなく、授業で野球をするのは難しいという。一時は校内で展示していたが、現在は「まれに放課後に学童保育の子が使うぐらい」と副校長。「運動場が狭い」など、そもそもボール遊びをする環境がないという声は他の学校からも聞かれ、近年の子どもとスポーツを取り巻く状況の一端も垣間見える。

昼休みにキャッチボールを楽しむ碧山小学校の児童たち=東京都西東京市で

新宿区のある小学校では、グラブが届いてからしばらくは休み時間にキャッチボールする児童がいたが、「子どもたちの熱が引いてしまった」と校長。職員室に置かれたグラブを借りに来る児童は、今はほとんどいないという。教員も日々の業務が多忙で、校長は「申し訳ないがグラブの活用に重点を置いていない」と話した。

◆全国的にはさまざまな活用例が

「大谷グラブ」は昨年末から全国の小学校や特別支援学校の小学部など、約2万校に3個ずつ(右利き用2個、左利き用1個)贈られた。都教育委員会によると、都内では今年2月までに約1400校に届けられた。活用方法は各校に委ねられ、都教委は実態を把握していないという。

全国的には、教員の見守りとゴムボールの使用を条件に運動場でのキャッチボールを解禁したり、地元の高校球児を招いて授業で野球教室を開いたりと、活用のヒントになりそうな事例もある。誰もが知るスーパースターと子どもたちをつなぐ「宝物」を死蔵させないため、現場の知恵に期待したい。

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