劇作家・北條秀司の足跡 スクラップ帳を次世代へ 進む劣化、所蔵図書館がCF

スクラップブックを手に、クラウドファンディングへの協力を呼びかける佐々木さん。資料の一部を紹介する展示も開催中=中央区の松竹大谷図書館で

戯曲「王将」で知られる劇作家、北條秀司(ひでじ)(1902~96年)は、自作が上演されるたびに劇評や記事を貼り込んだスクラップブックを作成し、約550冊を残した。半世紀に及ぶ劇作の苦闘の跡を刻む資料は経年劣化が進んでおり、所蔵する演劇・映画専門の「松竹大谷図書館」(東京都中央区築地1)が保存費用を募るクラウドファンディング(CF)を23日まで実施している。(服部聡子)

北條秀司=松竹大谷図書館提供

北條は1937(昭和12)年、「表彰式前後」で劇作デビュー。天才棋士・阪田三吉を人情たっぷりに描いた「王将」が47年、新国劇の辰巳柳太郎主演で上演されると、大当たりを取った。歌舞伎や新派、「名古屋をどり」でも筆を振るい、喜劇「狐狸狐狸(こりこり)ばなし」や歴史劇「井伊大老」などの名作を送り出し、多くの自作で演出も担当した。

「お客さまあっての芝居と考え、面白くするためには妥協を許さなかった」と、図書館司書の佐々木絵理さん。劇作に対する真摯(しんし)な姿勢は、スクラップにも。「王将」が75年に故緒形拳さん主演で再演された際、役者が全力で稽古に取り組まないと、降板を促した後で「たいへん厳しいことを書きましたが、なんとかして成功させたいのでどうかご了承ください」と書いたメモも残る。

スクラップ作りは、劇評を「座右に置いて改作の資料にしようと、保存をはじめた」(「北條秀司劇作史」)という。舞台写真や手紙も貼り込まれ、筆まめできちょうめんな人柄をうかがわせる。

デビュー作から82年の上演作まで225作品についての劇評などが収録され、その一部が生前の83年に図書館へ寄贈された。現在は関係資料を含め600点を図書館が所蔵。配役に合わせた改稿台本の写しもあり、今でも演出家らが参考にするため閲覧に訪れる。

CFの応募金額に応じて新派の俳優、波乃久里子さんらが北條作品を語るトークショーへの招待など返礼も。ウェブサイトは「READYFOR松竹大谷図書館」で検索。関連資料約40点を紹介する企画展は、図書館閲覧室で30日まで。


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