警戒心が強く、「幻のクロバト」とも呼ばれる天然記念物・カラスバトを追い、都立国分寺高校(国分寺市)の生物部が生息地の伊豆諸島を訪れて調査を続けている。中でも青ケ島は”楽園”と化しており、間近でじっくり観察も。衛星利用測位システム(GPS)を使った調査で生態の一端が分かってきた。
GPS装置を付けたカラスバト=2022年4月、大島町で(市石博さん撮影)
カラスバト全身がつやのある黒い羽毛に覆われたハト科の鳥。国の天然記念物、準絶滅危惧種。全長約40センチと大きめで頭が小さいのが特徴。かつては本州にもいたが個体数が減少し、現在は伊豆諸島や南西諸島などに生息している。
◆高校3年間で13回の現地調査、「楽園」青ケ島にも
「電線や木に止まっているのがすぐ見つかる。学校の近所のドバトみたいに。それだけカラスバトの個体数が多い」。生物部カラスバト班の3年相田(そうだ)麻衣さんは青ケ島で観察したときの様子をこう説明する。
カラスバトを観察する生物部員ら=2022年7月、東京都八丈町で(国光久徳さん撮影)
相田さんが伊豆諸島で現地調査したのは13回にのぼる。今年の夏は悪天候のため青ケ島には渡航できなかったが、昨年の夏は3年中村悠季さんたちと訪れた。
生物部はこれまで、都心から約120キロの伊豆大島を中心に調べていたが、「幻の鳥」とされるだけに姿の確認どころか、鳴き声を聞くことも困難だった。ところが、さらに200キロ以上南にある青ケ島ではいたる所で観察できたという。
青ケ島がカラスバトの”楽園”になっている要因について、相田さんは「火山島という地形が関係する」と指摘する。カルデラ構造で、外輪山に囲まれている青ケ島。内側はくぼんでいて風がよけられるため、木々が茂ってカラスバトが生息しやすい環境が形成されているという。温暖な気候で果物などの食べ物が多いほか、「繁殖期に天敵となる猛きん類がほかの島に比べて少ないことも、カラスバトが多数生息できる理由とみられる」と話した。
カルデラ構造が特徴の青ケ島㊨=本社ヘリ「まなづる」から
◆GPSで、島と島を移動する様子を追跡
記者は2022年6月、「保護した鳥にGPS装置を付けて野生に戻し、行動を追う研究を国立環境研究所や大島公園と共同で始めた」と記事にしたが、そのGPS調査も進んでいた。
2羽に装置を付けて行動を追跡した結果、1羽は伊豆大島の南東・筆島周辺で過ごした後、一晩で新島に飛び、その翌晩には三宅島に移動していたことが分かった。データを解析した2年西田翔馬さんと小寺真生さんは「移動するのは繁殖目的とみられ、午後8時から9時半に海上を飛んでいた。ハヤブサなどの天敵を避けるためではないか」と推測している。
◆「ウ・ウー」と「ガガガガガ」、それぞれどんな意味?
日野市の多摩動物公園のカラスバトを観察し、鳴き声を録音するメンバー=2024年7月、市石博さん撮影
鳴き声の分析も進めている。三宅島、青ケ島などで録音機やビデオカメラを使って集めた。2年小柳蒼太さんによると、少なくとも5種類の鳴き方があり、仲間に対しては「ウ・ウー」と「ガガガガガ」が発せられることがある。「行動観察と照らし合わせると、『ウ・ウー』は自らの存在を他者に知らせる意味、『ガガガガガ』は威嚇の意味があるようだ」と説明した。
生物部は現在60人で、うちカラスバト班は28人。研究は15年目に入っている。かつて伊豆大島の高校に勤務していた顧問の市石博さんは「成果が出始めている」と喜び、「先輩たちが積み上げてきた結果であり、快く協力していただいている外部の研究者のおかげでもある。生徒たちが謎の多いカラスバトの生態を解明し、保護につながっていけばと思う」と話している。
◆文・桜井章夫/写真・稲岡悟、嶋邦夫
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青ケ島でアカメガシワの実を食べるカラスバト=2023年7月、相田麻衣さん撮影
カラスバトの研究を続ける都立国分寺高校生物部カラスバト班のメンバーとの市石博さん(前列左)=国分寺市で
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